サクラ
仏壇の引き出しから、預金通帳に挟んであった現金を見付けた時、私は自分の足許で血の海に沈んだ四つの死体を一瞬忘れた。
沸き起こった感情は、
生きれる……
であった。
包丁の柄にへばり付くように凝り固まった右手の指を一本一本剥がすようにして放し、包丁を投げ捨てた。
無我夢中で現金をポケットに捩込み、その場を立ち去ろうとした時、私は何かに躓いた。
それは、暗闇の中で無念な眼差しを虚空に送る老女の首であった。
私が老女の首を何度も刺し貫いた刃先は、殆ど胴体から離す寸前までに切り裂いていたのだ。
僅かに皮一枚で繋がっていた頭部が、私の足が当たった事でぐにゃりとあらぬ方向に向かせてしまった。
既に光りを失った筈なのに、老女の眼は光っていた。
金縛りにあったかのように、私はその眼に射竦められた。
急に全身に汗を感じ、身震いする程の寒気が私を包む。
その時、微かに啜り泣く声が、私の耳へ届いて来た。