サクラ
彼女の番組は、一回の放送でそう多くの手紙は紹介しない。
他の番組ならば中身は読まれなくとも、ペンネームやイニシャルだけでも寄せられたリスナーの便りを紹介するが、彼女は一人一人に向き合うように紹介して行く。
仕方ないさ、毎日何百通と来るんだろうから……
少しずつ諦めの気持ちが出始めた頃、再びラジオからK・Kさんと呼び掛ける声が流れて来た。
『少し前に頂いたお便りからのリクエスト曲です。
わたしもこの曲、好きですよ。
きっと、K・Kさんには、いっぱい想い出が詰まってらっしゃるのでしょうね。
では、今夜最後の曲になります。K・Kさんからのリクエストで……』
あの日と同じように、それは唐突にやって来た。
もう番組では読まれる事など無いであろうと思い諦め掛けていた私に、彼女は再びロープを下ろしてくれたのだ。
自分のイニシャルを呼ばれた事が余りにも嬉しくて、私は不覚にも自分がリクエストした曲をまともに聴いていなかった。
今度はちゃんと聴かなくちゃ……
もう一度手紙を書こう。
布団の中で、私は初めて手紙を読まれた夜と同じように、お礼の文面を考える楽しさで心を踊らせていた。