サクラ
追伸。
弟の名前は達夫といいます。弟にも手紙を書き、必ず放送を聴くように伝えますので、一言、私の時のようにお声を掛けて下さいませ。
長々と失礼致しました。』
三通目の手紙を自宅のマンションで読みながら、千晶はそこに書かれた達夫という弟を想像してみた。
何かの本で読んだ記憶があるが、犯罪に於ける被害者は、何も直接被害を受けた者だけではない。
被害者の家族は勿論の事、実は、それ以上に加害者の家族は苦難のその後を過ごさねばならない……
といった内容が書かれていたと思う。
得てして、一番世間から忘れられがちな存在が、加害者の家族なのかも知れない。ましてや梶谷耕三のような殺人事件を犯した者の家族は、世間から彼らも加害者同然の視線を浴びる。
中には、世間の目を苦にし、自殺迄する者も居るという。
それも、世間の目を憚るようにひっそりと……
深い溜め息ばかりが、千晶の胸の中から生まれ出て来た。
確かに梶谷耕三は、自らの死をもって償っても償い切れない罪を犯した。
しかし、残されたその家族に迄、苦しみを与えて良いものであろうか。
千晶は自分に置き換えてみた。
もし、自分の父親が殺人犯であったら……
間違いなく現在のような仕事には就けていないだろうし、一生、人殺しの娘という名前を背負いながら、世間から隠れ、怯えながら暮らさなくてはならないだろう。
堪えられない……
その夜、千晶は思うように寝付けなかった。