サクラ

麦秋


 以前よりも一層水曜日が待ち遠しくなって来た。

 彼女の言葉を一語一句足りとも聴き逃すまいと、全身の神経を集中させる。

 彼女が語るリスナー達への問い掛けは、私への問い掛けでもあった。

 話す内容の変化に、私はすぐ気が付いた。

 その日見た景色や、街並み、人々の動き、表情、色。それは、まるで盲目の知人にでも語り掛けるような感じなのだ。

 映画や音楽、書物の話をする時も、前なら、良かったですよとか、彼女自身の感想ばかりだったのだが、今は流れて来る言葉と一緒に、その世界が見えて来るように話す。

 もう一つは、笑い声。

 お腹を抱えて転げ回るような大袈裟な笑い方ではなく、ふっ、と零れる笑い声がよく聴けるようになった。

 笑顔が見えて来る。

 まるで、彼女が目の前で私と言葉を交わし、優しげな笑みを零しているようで……

 多分、私の思い違いかも知れないが。

 彼女から届いた手紙を私は暇があれば読んでいる。

 きっとそのせいかも知れない。

 布団に包まり、そんな事を考えていると、


 まるで俺はストーカーみたいだな……


 なんて思ったりする時もある位だから、手紙を貰った事で舞い上がっているのは事実なんだろう。



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