サクラ
食事の後に顔馴染みとなった死刑囚と、一言二言言葉を交わす。
互いに多くは語らない。
だが、言葉の重みを感じ合っている事は間違いない。
大型テレビに映し出されるビデオを観、皆、幼少の頃に戻ったかのように笑い、心を和ませ、時に涙を流す。
ビデオが終わり、それぞれが舎房へ戻る時には、再び死刑囚としての日常が始まる。
その日一緒に時を過ごした者達の共通した思いは、次も同じ顔触れなのだろうか、とか、欠けるかも知れない人間の中に、ひょっとしたら自分が入るかも、といった不安と、次も…という思いが入り混じっている。
そうこうして舎房に戻ると、殆ど作業終了時間に近い。
その日一日が、もうこれで終わったという感覚になる。
「187番、梶谷だね?」
「はい」
「面会だ」
息つく暇もなく面会の呼び出し。
弟か?それにしては来る時期が早過ぎる……
「弟でしょうか?」
「そうだ」
面会に来てくれたのは嬉しい事だが、私は寧ろ前回の面会から日が浅い事に不安を抱いた。
単調な日常に慣らされてしまった者にとって、ほんの少しばかりの変化でさえ猜疑心に駆られてしまうものなのだ。
執行が近くなった?
その為の面会か?
私の胸に、泡立つようにそんな思いばかりが膨らんだ。