サクラ

 私の杞憂だった。

 面会室には、弟の他に三十代と思しき女性が待っていた。


 誰だ?


 失われつつある過去の記憶を遡る私を見て、弟が笑みを零す。

「多恵子だよ」

「伯父さん、久し振りです」

「多恵子、て、あの多恵子ちゃんか?」

「はい」

 姪の多恵子を最後に見たのは、もう十八年近く前だ。

 私のせいで高校入学前に母方の親戚へ養女として貰われた。

 その姪の面影を頑張って記憶の底から引き揚げようとするのだが、まるで変わってしまっていてどうしても重ならない。

「突然、兄さんに会いたいって…高梨の方は、反対したらしいんだけど……」

 高梨は多恵子が貰われた親戚だ。

 目の前に居る多恵子の顔がどんどんぼやけて行く。

 多恵子の顔が完全に潤みの中に飲み込まれ、私は悲鳴にも似た嗚咽を上げていた。




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