サクラ

 立ち上がった私の背中を刑務官の手が、優しく押していた。

 面会場の端にある時計を見ると、私が面会室に入ってから既に二十分になろうとしていた。

「担当さん、ありがとうございました」

「何の事だ?」

「時間……」

「……もっと面会させてやりたかったが、後ろもつっかえてるし、あんなもんで我慢してくれ」

 廊下を連行されながら、私は何度も頭を下げた。

 舎房棟に着くと、別れ際にその刑務官は、

「今日の事、大事に胸にしまって置きなさい。頑張ってな……」

 と言った。


 頑張ってな……


 何気ない一言、ごく普通に相手を気遣う言葉だが、この時の意味は、私にとっては計り知れない深い意味を持っていた。

 面会室での事を噛み締める間もなく、担当が私の所へ来て、

「手紙が来てるぞ」

 と、分厚い封書を差し出して来た。

 封書の文字は女性からだと一目で判る柔らかな書体だった。裏を返し名前を見た時、


 今日という日は、神様が私に褒美をくれた一日なのか?


 麻宮千晶という文字が、私に優しく微笑んでいるようであった。



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