サクラ

『前略。
 梶谷様。お手紙、いつもありがとうございます。お体に変わりはありませんか。
 初めて梶谷様からお便りを頂いてから、早いもので、三ヶ月近くになろうとしております。その間、何度か返事を書こうかどうしようか迷いました。
 わたしの放送を聴いて下さっている方から、これまでも、沢山の葉書やお手紙を頂戴して来ましたが、直接こうしてご返事させて頂くのは、今回が初めての事なのです。
 どなたにもご返事をして来なかったのには、わたしなりの理由がありました。
 番組に寄せられたお便りには、番組の中でお名前を読んで差し上げたり、リクエストにお応えする事がご返事なんだと自分の中で決めていたのです。
 その気持ちには、今も変わりありません。
 ですが、梶谷様のお手紙を拝見致しました時、わたしはこの方にどうお応えしていいのだろうと悩みました。
 梶谷様の置かれている立場などを考えますと、番組の中で読み上げたり、お名前をお呼びする事にいろいろと差し障りがあると思ったのです。
 頂いたお手紙を単なる私信として受け止める事も出来ず、書きかけの便箋ばかりが溜まってしまいました。
 梶谷様には申し訳ないのですが、事件の事、ネット等で調べさせて頂きました。勿論、現在の置かれてらっしゃる状況も。
 ただ、記録に残されたものは事件の概略を伝えるばかりで、その裏側迄は伝えてくれません。
 そんな時に、三度目のお手紙を頂いたのです。
 正直、衝撃以外の何ものでもありませんでした。
 この方は、言葉を待っている、誰よりも問い合掛けられる事が必要なんだ、そう思ったのです。
 自分の仕事は何なのか、わたしの役割は何であるのかを改めて教えて頂いた手紙でもありました。
 そして、気が付いたら便箋に字を埋めておりました。
 ラジオでは、梶谷様の問い掛けにわたしは応える事は出来ません。でも、ペンを走らせる事は出来ます。
 声とは違い文字の上では、わたしの思いがどれだけ伝えられるのか自信はありませんが、ラジオで話している時と同じように、一言の言葉を大切に書いてはいるつもりです。
 ですから、こうして書き上がる迄、随分と日にちが経ってしまいました。言い訳のようでごめんなさい。
 このご返事で梶谷様に一番伝えたかった事は、わたしなりの感謝の気持ちなんです。伝わりましたでしょうか?




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