サクラ
良い事ばかりがそうそう続くものでは無い。
執行があった。
同じ階の住人だった。
その日の朝、刑務官達に慌ただしい動きが感じられた。
普段なら、作業材料が舎房に入れられる筈なのに、朝食の空下げが終わってもまだ入らない。
報知器を下ろし、材料の催促をしようと、担当か雑役が来るのを待っていた。
「報知器は?」
見かけない職員が聞いて来た。
「材料、まだ入れて貰ってないんですが……」
「今日は、ちょっと待っててくれ。後で入ると思うから、それまで静かに休んでなさい。作業時間だが、読書をしてても構わないから」
その刑務官の話し方と落ち着かない態度で、私は全てを察した。
前回執行があったのは、一昨年の丁度今頃。
その時もこんな感じだった。
やはりこの階の住人で、私より若い死刑囚だった。
連行される時、かなり大変だったようだ。
廊下に面した舎房の窓に、段ボールか何かで作った目隠しが掛けられ、こちら側からは連行の様子が見えないようにされたが、声までは遮る事は出来なかった。