サクラ

 動けなくなったのか、連行する刑務官達の

「立ちなさい」

 という声が、静まり返って廊下に響いた。

 その時点では、いったい誰が刑場へ連行されてるのか判らなくて、


 誰なんだ?


 と、私の頭の中はずっとその事ばかりを想像していた。

 何人もの顔が浮かび、消えて行く。

 直接顔を見知った死刑囚だけではなく、新聞や雑誌で見た顔までが頭の中でぐるぐる回った。

 執行されたのが誰であるかを知ったのは、月が変わってからの事であった。

 何人もの幼児を誘拐し、殺した男だった。




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