サクラ
週末、私は担当に願い出て、法要の希望を申し出た。
数日して願い出は聞き届けられ、私は数珠を手にし、施設内にある教悔室へ行った。
教悔室はどの宗派でも大丈夫で、彼岸の時や親族の命日、或は被害者の冥福を祈る場所として使われている。
私も、彼岸法要と被害者への冥福で何度か訪れた事があるが、最近では足が遠くなっていた。
何ヶ月振りかで訪れた部屋には、線香の独特の匂いが立ち込めていた。
昔から、この線香の匂いが好きではなかった。
気持ちが落ち着くとよく言うが、私は気持ち悪くなる時がある。
此処の線香の匂いもきつく、多少えずく感じがしたが、我慢出来ない程ではなく、これも慣れなのかなと場違いな事を考えたりしていた。
大きな祭壇には、供物が具えられ、所内で亡くなった者への供養を意味する、無縁佛と書かれた掛け物がある。
連行の職員が私を促し、焼香をする。
無言で手を併し、冥福を祈った。
老死刑囚、亡くなった父母や親族。
そして、被害者へ。
季節は、もうすぐ忌ま忌ましいあの夜を迎える。
18回目の冬が、足音を忍ばせてもうそこまで来ている。