サクラ
「歳って、取るもんじゃないよね……」
「しゃあねえだろ、四十過ぎりゃ誰でも腹は出てくんの」
「違う。その事じゃないわよ」
「じゃあ何だよ、はっきり言えよ」
「わたしが入社仕立ての頃のダイさんて、まだADだったでしょ?」
「また随分古い話持ち出すなあ。ああ、年中どやされてた使えないADだったな……」
「わたしにはそうは見えなかったなあ」
「へええ、どう見えてた?」
「思ってる事を何でも言って、自分が間違ってないって思ったら、脇目も振らず突っ走ってた……」
「そうだったかなあ」
「そう。でもね、ちゃんと、自分が間違ってた時は頭下げてた」
「今は違うってか……」
「正しいと思ってても、頭下げたりしてる」
「…立場ってもんがあるんだ」
「判るわよ、それ位。背負うものもいろいろ出て来るし。わたしもそうなって来てるから」
「ちぃが?そうかあ、俺から見ると、お前さんは前と少しも変わってないけどな」
「そんな事ないよ…そんな事」
頬杖をついて話す千晶の目を見て、大越は今夜はとことん付き合うかと思った。