サクラ

「余り深く考える事じゃないってダイさんは言うだろうけど、これって浅く考えられる?
 たかがラジオだけど、こんなにも必要としてくれてる人がいるのよ」

「…もう一本、飲むか?」

「はぐらかさないで。何か言ってよ」

「喋ってもいいのか?」

「少しは会話にならないと、自分でも何話してるか判らなくなるから、だから話して」

「多分、死刑囚というのがちぃの頭の中で引っ掛かってんだろうなあ。
 いや、死刑囚というんじゃなく、死を目前にした人間に対して、何とかしたい、して上げたい、でも出来ない、そういうのが複雑に絡んでるんだよ。
 これが同じ死を目前にした人間でも、例えば癌で余命僅かって人間からこういう手紙が来て、番組で勇気付けられましたって話ならば堂々と番組の中で取り上げられるのにって、編成部だって、そういう話なら感動的だ、よし、そのリスナーとの手紙のやり取りを特番にしちまえってなるかも知れない。でも、現実には、手紙の主は癌ではなく、死刑で命を絶たれる人間だ。犯した犯罪は、何人も人を殺してのもんだし、世間から感動も同情も集まらない。でも、自分は手紙から何かを感じてる。その思いを伝えたいのに伝えられないもどかしさ……そんなジレンマは、世の中には吐いて捨てる程あるぜ」

 一気に捲くし立てるように話した大越は、少し言い過ぎたかなと後悔した。

 何時もなら、これだけの事を言われたら必ず反論してきた千晶が押し黙って俯いている。



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