サクラ
突然、周り全体がオレンジ色に変わった。
視覚ではオレンジという色を認識していないのに、脳は私にオレンジ色と言っている。
目も眩むような明るさの中に、放り込まれたかのようだ。
ぬるり、右手に生温い感触がした。
身体が動かない。何かに捕まえられている。
見てはいけない……
判っている、判っているんだ……
だが、あの時と同じように五体が動き、五感が感触を甦らす。
右手が動く。
何度も。粘土に竹べらを刺す時に似た感触が、手首から腕、そして肩へと伝わり、脳の中で鮮やかな爆発を起こす。
見てはいけない!
判ってる、判ってるんだ……
腰に纏わり付く塊を見てしまった。
首が半分取れ掛かっている。
口だけがまるで池の鯉みたくぱくぱく動いていた。
吐き出される血。いきなり赤の色だけが視覚いっぱいに広がった。
赤く閉ざされたカーテン。
別な塊が手足をばたつかせている。
赤いカーテンが揺れ動く。
見るな!見ちゃいけない!
判ってる、判ってるさ……
左手が塊を掴んでいた。
私の方へ向ける……
に、兄さん……
達夫?
た、たす、け、て……
や、やめろお!