サクラ
「後一ヶ月ちょっとかぁ……」
「念願の報道がやれる割には嬉しそうじゃないな」
「報道が出来るのはそりゃ嬉しいわよ。でもねぇ……」
「そうか、俺と離れるのがそんなに寂しいという訳か」
「それは無い、全然、大丈夫」
「何だよ、もう少し名残惜しむとか、寂しくなっちゃうわ、とか嘘でも言えないのかよ」
「正直者で売ってますから。それに、番組変わっても狭い局内なんだから、顔合わすじゃない」
「それがさ、俺も移動なんだ」
「えっ、ダイさんも?」
「そうなんだよ、せっかく行き遅れのアラサーからピチピチの若手に乗り換えられると喜んでたんだけどな」
「ご愁傷様。で、ダイさんは?」
「ミッドナイトタウンの後釜」
「わたしは朝だから、すれ違いだね」
「やっぱり寂しいか?」
「そんなに行き遅れのお局アナに、寂しいって言って欲しいの?」
「ちょっぴり」
「ちょっぴりだけなら言って上げない」
こんな冗談のやり取りも、春が来れば出来なくなる。
そう思うと、大越に言われたように、ちょっぴりだけ寂しい気持ちになって来た。
いや、本当はすごく寂しいと思っている千晶だった。