サクラ
「梶谷、定期便だ」
書信を届けに来る刑務官がニコリとし、彼女からの手紙をくれた。
だいたい、週末の木曜日か金曜日に彼女の手紙は届く。
土日の休みの間に、その返事を書くと、先方へは水曜日迄には着く。
彼女は、律儀にも受け取ったその日のうちに返事を書いてくれていた。
その日の手紙には、少し残念な事が書かれてあった。
今の番組が、三月いっぱいで終わるらしい。でも、以前からの希望だったニュースの番組を受け持つ事になったらしいから、彼女の為にも喜んで上げなければならない。
残念な事があっても、それを埋め合わせてくれる事があった。
彼女の顔を初めて見たのだ。
朝刊の文化欄に、彼女の写真が載っていた。
想像通りの雰囲気だった。
私は、他の記事など飛ばし、そこの記事ばかり何度も読み返した。
内容は対談で、音楽や映画、演劇、それに彼女がこれまで読んだ本とかの話だった。
読んで行くうちに、彼女の人間像が浮かび、書かれてあった言葉が、声となって聞こえて来そうであった。
彼女が一番感動した映画が『奇跡の人』だと知り、初めて買ったCDが男性アイドルグループの物だと知って、何となく微笑ましくなった。
その日書いた手紙に、私はこの記事の事を書いた。