サクラ
そしてサクラ
「……もうすぐ三月も終わりですねぇ、そしてこの放送も来週でラストになります。みんな、泣いちゃだめだよぉ。え?四月からは、若くて可愛いパーソナリティに代わるから大丈夫ですって?
ええ、どうせわたしは姥桜よ、うぇぇん、て、泣く訳ありませんわよ。
さてさて、冗談はさておき、今夜も最後の曲になってしまいました。
今夜お届けする曲は、ちょっぴり懐かしい曲ですよ。シンさん、メメさん、リクエストありがとう、、この季節にピッタリ。ジョー・コッカー&ジョニファー・ウォーンズで『愛と青春の旅立ち』リチャード・ギアさまぁ……」
マイクのスイッチが切られ、ヘッドフォンを外し立ち上がった千晶に、若いADが声を掛ける。
「千晶さん、最近なんかキャラ変わりましたよね」
「そうかなぁ、わたしは意識してないけど」
「確かに変わったぜ」
大越もブースに入って来て同じ事を言った。
「今のちぃもなかなかいい感じだな」
「ダイさんまで。まあ、そんなに変わったとおっしゃるんでしたら、どの辺が変わったのか、この後詳しくレクチャーして下さりません事?」
「滅多に無いお誘いか?」
「おねえちゃんが付かないお店でね」
「またおでん屋か?」
「今夜はお好み焼き屋さん。美味しいとこ見付けたの」
「何か色気の無い店ばっかだなあ。口説くに口説けない」
「あぁら、本気で口説いた事なんて一度も無いくせに」
「鉄のパンツ履いた女は口説かない主義でね」
「悪いけど、今夜はシルクです」
こんな冗談のやり取りが交わせるのもあと僅か。ほんの少しばかり、感傷的になる千晶だった。