サクラ
最近は余程不景気なのだろう。我々が行う作業が極端に減って来た。
私が作っているのは、惣菜を入れる紙袋。
以前は、朝一番で舎房に入れて貰った材料が一日で終わるなどという事はなかったのだが、最近は半日分位の量しか回って来ない。
ゆっくりやってくれと言われても、自然と手が動き、気が付けば終業の二時間前位には手持ち無沙汰になっている。
そんな時は仕方ないから、刑務官の目を盗みながら、小机の下に忍ばせた本に手を伸ばしている。
尤も、その現場を見られたとしても、死刑囚である私に注意をする刑務官などいない。
今読んでいるのは、先月、弟が差し入れしてくれた物で、正直私には何が何だか判らない内容の小説だった。それでも、暇つぶし位にはなる。
今日は朝から雨音がし、せっかくの運動時間も中止になってしまった。
時折、窓の外に鳩が雨宿りをしに来ているが、あいにく今日は彼らに与える餌が無い。
作業中の読書とは違い、さすがに鳩や猫に餌を与えているところを刑務官達に見付かれば、厳しく注意をされてしまうから、判らないようにしなければならない。