来栖恭太郎は満月に嗤う
もう一度。

その娘、アリカは俺を睨んだ。

「下郎!口の利き方に気をつけろと言った筈よ!」

簡単に癇癪を起こす辺り、相当に我儘且つ自由奔放に育てられたらしい。

しかしそれも、その実力に見合った扱いか。

俺はこのアリカ・ローゼンハイムという名を知っていた。

人外の世界でも一目置かれる存在である強力な種族『悪魔』。

その中でも爵位を与えられるのは男性の悪魔であり、並の人外では手も足も出ないほどの魔力と実力を兼ね備えている。

だがその爵位級悪魔の中で、唯一の女が存在する。

しかも悪魔の中では年端もいかない、リルチェッタ程度の年頃の娘。

それが目の前にいるアリカ・ローゼンハイム。

その力は、並列世界をも自由自在に行き来するという、いわゆる次元干渉が可能とされている。

ある世界では東西に二分されるほどの大戦争を引き起こすほどの災禍の胤を落としていったとされ、ある世界では呪眼の魔女に恨みを抱く魔女狩り将軍と名乗る男にその力を貸し与えた。

ふざけ半分で様々な世界に不幸と災いをばら撒いてきたという話には、枚挙に暇がないのだ。

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