来栖恭太郎は満月に嗤う
背後からアリカの細い肩を掴む。

それだけで、アリカはビクリと身を震わせた。

「な、何をする気?」

「吸血鬼がやる事は吸血と相場が決まっているだろう。久しく味わっていないのでな…少し多めに吸わせてもらうぞ、アリカ」

俺のその言葉に、アリカは蒼白とした。

彼女は爵位級悪魔と同等の魔力を持つ。

俺に吸血されたところで、非力な人間のように吸血鬼化する事はあるまい。

だが、真祖に血を吸われた者は例外なく『虜』にされてしまう。

己の意思や矜持とは関係なく。

「アリカ、許しを乞うならば勘弁してやらない事もないが…ローゼンハイムの娘がたかが下賎な吸血鬼の軍門に下ったとあっては恰好がつかんだろう?そら…『許してください来栖様。血を吸うのだけはお許し下さい』と、潤んだ瞳で哀願して見せろ」

「だっ…誰がっ…!」

恐怖に震えながらも、気丈に俺の提案を跳ね除けるアリカ。

「そうか…俺は別に構わんのだがな」

そう言って躊躇もなく。

俺は彼女の首筋にプツリと牙を突き立てた。


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