来栖恭太郎は満月に嗤う
「くぅっ…ん!」

アリカが鼻にかかった甘い声を上げる。

痛みはなかった筈だ。

…実は吸血鬼の吸血行為に、苦痛は伴わない。

あるのは快楽にも似た、気が遠くなるほどの甘美な刺激。

その刺激に耐えられず、吸血された者は虜となる。

牙持つ闇の支配者の奴隷と化すのだ。

「そら、まだ牙を突き立てただけだぞ?もう音を上げるのかアリカ?」

嬲るように、彼女の反応を楽しむように言う。

「く…だ、誰が…」

声を震わせ、小刻みに震えながらも気の強さを失わないアリカ。

だが全身の発汗は明らかに量を増していた。

「そうだろう。この程度でローゼンハイムの娘が屈する訳がない。大量の血を啜った所で、何ら問題はないよなあ?」

彼女が既に限界寸前なのは分かっていた。

その上で、そんな事を耳元で問いかけてやる。

「え?あ、ちょっと!待ちなさい!大量になんて…!」

アリカが脅えたように言うが時既に遅し。

「~~~~~~~~っっっっっっ!!」

一気に血を啜り上げられ、彼女は声にならない悲鳴を上げた。

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