来栖恭太郎は満月に嗤う
深く昏く、朝が来ても陽光さえ届かぬ樹海。

加えて終日霧深いこの森は、知る者ならば絶対に足を踏み入れず、知らぬ者ならばたやすく迷って命を落とす。

故に、この屋敷に辿り着く者など限りなく皆無。

だから俺も、この娘の事は覚えていた。

…ぼんやりと照らす灯りの中、俺は玉座の如き椅子に腰掛け、肘掛けに頬杖をつく。

視線は、嘲笑するように真っ直ぐ。

その嘲りを真っ向から受け止めるように、少女は俺を見据えていた。

軽くウエーブのかかった柔らかな金髪。

大きく、潤みを帯びた瞳。

桜の花びらの如き可憐な唇。

上質なシルクのような、白く美しい肌。

たとえるならば人形。

しかも子供の玩具ではなく、貴族連中が愛でる高価な愛玩人形のような、精巧で緻密な造りの人形を思わせる。

それ程の愛らしい少女だった。

< 3 / 162 >

この作品をシェア

pagetop