来栖恭太郎は満月に嗤う
「ほぅ」

俺は馬上からニヤリと笑う。

木陰に隠れていたのは、一匹の狼だった。

狼といっても、平均的な狼よりは一回り大きい。

鋭い牙を覗かせ、こちらから視線を逸らさずに唸り声を上げる。

本来狼とは群れで獲物を襲撃する動物だが…あの体躯ならば、或いは単独での狩りも可能なのかもしれない。

しかし…。

「所詮は畜生よな」

俺は狼を恐れる事なく言う。

「犬コロ風情が、この来栖恭太郎を狩れると思ったか」

よもや、言葉の意味がわかったという事はないだろうが、狼は身を低くし、体をちぢこめる。

今にも飛びかかろうという体勢だ。

「身の程知らずが」

手綱を右手に、鞭を左手に握り締める。

「どれ…少し戯れてやるか」


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