来栖恭太郎は満月に嗤う
馬上鞭というのは、長さは60センチほどで先端には小さな板が付けられており、痛みよりも音を大きく鳴らす事が目的。

故に本来ならば打った所で馬を傷つける事はない。

が、それは並の人間が打った場合だ。

俺の腕力ならば、十分に武器としての威力を発揮する!

鞭打たれ、甲高い鳴き声を上げて地面に落ちる狼。

「何だその声は」

見下すように、俺は狼に視線を送る。

「やはり貴様は狼ではなく犬のようだな。しかも最も卑しい『負け犬』だ」

その言葉に挑発されたかのように、狼は何度も何度も飛びかかってくる!

その度に鞭打ってやった。

毛皮が裂け、血にまみれ、その血が地面に滴り落ちるほどに鞭打った。

やがてその行為に。

「くくっ…くはは!ははははははははっ!」

俺は嗜虐心を満たされ、愉悦を感じ、高笑いを上げる。

…その姿に狼は恐怖しているようだった。

狼だけではない。

愛馬も、リルチェッタも。

『非ず者の館』の主人である、この来栖恭太郎に、その場にいた全ての者が畏怖していたのだ。

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