来栖恭太郎は満月に嗤う
「その辺にしておいたらどうだ?」

鞭の音だけが響く静寂の樹海に、声が聞こえてきた。

風に乗って聞こえてきた声。

その発せられた声のもとが、どこなのかは確認できない。

ただはっきりと、俺の行為を制する声だけが耳に届いた。

「……?」

どこから聞こえる声なのか。

リルチェッタも周囲をキョロキョロと見回す。

「その狼を番犬とするつもりなのだろう?それ以上鞭打てば、番犬どころか屍にしかならんぞ」

「フン…」

その声の主の言葉に従った訳ではない。

俺は何者の指図も受けぬ。

ただ、声の主の言い分も一理あると思っただけだ。

鞭を下げ、俺は軽く舌打ちする。

「ハルパスか…使用人の分際で差し出口を」

「ハルパス…?」

この屋敷に来て、初めて聞く名前なのだろう。

リルチェッタが不思議そうな顔をした。

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