来栖恭太郎は満月に嗤う
カルロス・ハルパス。

リルチェッタが我が屋敷に来る前からいる、使用人の一人。

役目は猟場番。

屋敷の広大な敷地を管理するのを仕事とする。

本来猟場番とは、文字通り鹿や野鳥といった獲物の猟をする場所を管理する仕事なのだが、こんな狼がうろついているという事は、ハルパスが猟場番としての役目を果たしていないという事だ。

「貴様の職務怠慢で、俺が手を煩わせる事になったのだ。姿を見せんかハルパス」

「……」

しかし彼は口を噤んだまま、俺の前には現れようとしない。

…ハルパスは、唯一俺の目の前にしか姿を見せない。

俺以外の誰か…現在ならリルチェッタ…がいる時には、絶対に面前に現れようとはしないのだ。

それは、ハルパスが己の容姿を酷く気にしており、外見を他人の目の前に晒すのを過剰に拒絶するからに他ならないのだが…。

「まぁ出ては来れんか。あのような醜い姿を、リルチェッタのような年頃の娘の前に晒すなど…」

「来栖!!!」

俺が容姿の事を口にすると、ハルパスは語調を荒くして叫んだ。


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