来栖恭太郎は満月に嗤う
年の頃17か18。

こんな人の世と魔界の狭間に位置するかのような、恐ろしげな森の中にある屋敷には似つかわしくない少女だった。

にもかかわらず、その娘は俺に言う。

「この屋敷で、私を雇って下さい」

…足を組み替え、俺は椅子にのけ反った。

解せぬ。

小遣い欲しさならば、このような辺境の屋敷など訪れずとも仕事はあるだろう。

何よりその器量だ。

生かせば小銭程度ではおさまらぬほどの大金を手にする事とて可能な筈。

にもかかわらず、歩くのも困難な森を抜け、娘はこの屋敷に来た。

理由は容易い。

「両親の仇である俺の下で、働きたいというのか?」

俺は口を歪めて見せた。

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