来栖恭太郎は満月に嗤う
そう考えていた矢先、彼女はこちらの思惑に見事にはまってくれた。

ある日の事。

俺が馬での散歩から帰ってくると。

「きゃあっ!」

エントランスホールの方で悲鳴。

俺はすぐにほくそ笑んだ。

これは、リルチェッタが何かやらかしたに違いない。

逸る気持ちを抑え、あくまでも平常通りに悲鳴の聞こえた先へと向かう。

…連日の多忙で疲労も蓄積されていたのだろう。

そこには水の張ったバケツを引っくり返し、エントランスホールの床をびしょ濡れにしたリルチェッタがへたり込んでいた。

どうやら床のモップ掛けの途中で、バケツに躓いて転倒したようだ。

「どうしましたか、リルチェッタ?」

悲鳴を聞きつけ、クレオもその場に駆けつける。

「も、申し訳ありません…!」

今にも泣き出しそうな表情でクレオに詫びるリルチェッタ。

彼女はしばらくして。

「……!」

この失態を、屋敷の主人である俺に目撃されていた事に気づいて青ざめた。

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