来栖恭太郎は満月に嗤う
笑い出しそうになる表情を引き締め、俺は冷ややかな視線をリルチェッタに投げかける。

「何をしている?」

「申し訳ございません!決して悪気があった訳ではなく、そのっ…」

必死に弁解しようとするリルチェッタ。

「言い訳は聞いていない」

冷徹な眼差しで、俺は彼女を射竦めた。

「何をしているのかと訊ねている」

「……」

床に蹲ったまま、リルチェッタは小刻みに震え始めた。

情の欠片すらも感じさせない俺の視線。

年端もいかない少女には、さぞや堪える事だろう。

「モップ掛けの最中に…バケツを転倒させてしまいました…」

嗚咽にも似た声で、リルチェッタは言う。

その声には、これから予想される失態への『罰』を想像しての恐怖が滲んでいた。

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