来栖恭太郎は満月に嗤う
俺はこれ見よがしに溜息をつく。

「目撃したのが俺だからよかったようなものの…もしこの場に居合わせたのが屋敷を訪れた来賓だったらどうする?エントランスを水浸しにするような躾のなっていないメイドを召し抱えていると、恥をかくのは一体誰だと思う?」

この屋敷に来客などある筈がない。

あの樹海を生きて抜けられる人間など、数える程度しかいないのだから。

それでも俺は、リルチェッタの失態を誇張するかのように責める。

「来栖様、お言葉ですがリルチェッタは連日の激務で疲労が蓄積しておりまして…」

クレオが何とか俺の怒りを鎮めようとする。

使用人同士で庇い合いか。

麗しき友情という奴だろうか。

そんなクレオに。

「そら」

俺は鞭を手渡した。

ちょうど乗馬から帰って来たばかり。

俺は馬上鞭を手にしていた。

「クレオ、お前はリルチェッタの上司兼教育係だろう。教育の一環として、仕置きも必要だ」

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