来栖恭太郎は満月に嗤う
「さぁ」

命令通りにリルチェッタが背中を向けた所で、俺はクレオを促す。

「……」

いつも紳士面したクレオの目が、この時ばかりは困惑していた。

たった一度のミスを犯しただけの部下を、馬上鞭で鞭打つ。

普通に考えれば、あまりにも苛烈な仕置きだ。

痛い程度では済まないのはわかりきっている。

だが…クレオとて馬鹿ではない。

自分がリルチェッタを打つのと、俺にリルチェッタを打たせるのと、どちらが軽い苦痛で済むのか。

「歯を食いしばりなさい、リルチェッタ」

クレオは大きく鞭を振りかぶり。

「くぅっ!」

リルチェッタの小さな背中に馬上鞭を振り下ろした!

ビシィッ!

乾いた音と共に、リルチェッタが声を上げる。

静まり返ったエントランスに響く鞭の音と少女の声。

「まだだ」

俺は腕組みしたまま、クレオに言う。

「やめろと言うまで続けろ」

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