来栖恭太郎は満月に嗤う
翌日。

濃い霧に覆われ、太陽の光すら届かない樹海の奥の屋敷にも、等しく朝はやって来る。

俺にとっては清々しい、リルチェッタにとっては憂鬱しか感じさせないであろう、新しい一日の始まりだ。

ベッドの中で鳥のさえずりを聞きながらまどろんでいると。

「失礼致します」

極々小さな音を立てて部屋のドアを開けたクレオが入室してきた。

「おはようございます来栖様。起床のお時間です。朝の紅茶をお持ち致しました」

「ん…」

まだ若干重い瞼を開き、俺はベッドから起き上がる。

その視界に最初に捉えたのは。

「!」

恭しく頭を下げる執事のクレオ。

その数歩後ろで、同じように一礼するメイド姿のリルチェッタだった。

< 56 / 162 >

この作品をシェア

pagetop