来栖恭太郎は満月に嗤う
俺はリルチェッタの顔を凝視する。

「あの…」

少々気圧されするリルチェッタ。

「来栖様…私の顔に何かついていますか?」

その表情は、いつも通り俺に対する嫌悪感を露わにしたものの、別段何かを堪えているような素振りは感じさせない。

…クレオと共に、俺に振る舞うモーニングティーの準備をするリルチェッタ。

その後ろ姿を見つめる。

…エプロンドレスの襟元から、僅かに覗く赤黒い傷痕。

それは紛れもなく、俺が鞭で打った痕だ。

当然だ。

昨日の今日で、あれ程の裂傷が完治する筈がない。

確かにリルチェッタは傷を負っている。

なのに何故、何事もなかったかのように職務が出来る?

並の人間ならば、数日はまともに歩く事さえできない筈だ。

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