来栖恭太郎は満月に嗤う

「ラ…ライガン…」

己の置かれた状況に気づいたリルチェッタが、声を震わせる。

手にした剪定鋏を震えのせいで取り落とし、ジリジリと後ずさり。

それを追い詰めるかのように、ライガンもまたヒタヒタと距離を詰める。

口元からは、だらしなく涎を垂らす。

その様が、この間まで樹海で野生の狼として生き抜いてきたライガンの獰猛さを際立たせていた。

「い…いい子だから…ライガン…向こうへ行ってて？私は貴方に敵意なんて持ってないわ…？」

子供に言い聞かせるような口調で、リルチェッタがライガンに語りかける。

「あ…あとでご飯準備してあげるから…それまで大人しく待っててライガン…ねぇ…お願いよ…」

言葉の最後は、最早哀願に近いものになっていた。

これから起きるであろう惨事を思い浮かべ、涙を浮かべるリルチェッタ。

しかし、狼に哀願など通用しない！