来栖恭太郎は満月に嗤う
無様な事この上ない狼狽振りで、リルチェッタが庭園内をヨタヨタと走る。

無論、ライガンもそれを追跡する。

…ライガンは野生の狼として樹海で暮らしていた頃、人間の肉を口にした事があるのだろうか。

樹海には何人かの人間が迷い込み、消息不明になったという話もある。

ならばそのまま命を落とした人間の亡骸を、食料とした事もあるかもしれない。

だとすれば。

一度人間の味をしめた野獣は、頻繁に人間を襲うようになるという。

ライガンもまた、人食いの狼として樹海に君臨したのかもしれない。

今更リルチェッタを襲う事に躊躇などあろうか。

彼女を捉えるライガンの眼差しは、完全に獲物を見るそれであった。

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