来栖恭太郎は満月に嗤う
「……?」

その言葉に違和感を覚え、俺は再び振り向いた。

追い詰められ、風前の灯と化したリルチェッタの命。

その彼女が吐く台詞としては、あまりにも自分の置かれた状況を理解できていない。

切羽詰まっているのはリルチェッタの方なのだ。

何だ、その強者が弱者を憐れむような台詞は。

…ライガンも、リルチェッタの口にした言葉に違和感を覚えているように見えた。

あの狼も、どこか人間の言葉を理解しているような節がある。

ならばリルチェッタの発言に、どこかピントのずれたようなものを感じるのは当然。

何より主導権を握っているのはライガンの方なのだ。

そんな口をきかれる筋合いはない。

ましてや、退いてやる理由などありはしない。

目の前の可憐なメイドの喉笛を噛み千切るべく、跳躍の体勢をとる。

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