来栖恭太郎は満月に嗤う
ただ殴り伏せていたのならば、俺とてそれ程驚きはしない。

リルチェッタは何らかの体術の使い手だったのだなと思う程度だ。

だが、目の前のリルチェッタの姿はそういう類のものではない。

一瞬。

ほんの一瞬だが、華奢で細身の筈のリルチェッタ…その右腕だけが、三倍、いや四倍はあろうかという太さ大きさにまで肥大化し、ライガンを地面に叩き伏せたのだ。

まるで彼女の右腕だけが、巨人か何かの腕を移植したかのように。

筋骨隆々の巨大な腕が、細身のリルチェッタの体についている。

そんなアンバランスな姿に、瞬き程度の間だけ変貌したのだ。

…或いは、俺の目の錯覚かと思ってしまうほどの短い間だけ。


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