来栖恭太郎は満月に嗤う
しかし。

「逃げ惑う?」

俺はその場に立ち止まった。

相手が飛び道具を持っている以上、遠い間合いからの攻撃手段を持たない者は足を止めてはならない。

狙い撃ちにされるからだ。

それ故に俺の行為に、ハルパスは怪訝な顔をする。

「逃げるのを諦めたか?」

「これまたおかしな事を言う」

高みから見下ろすように。

格下を見下すように。

俺はハルパスに嘲りの笑みを浮かべた。

「魚類風情が何を勘違いしている。俺を誰だと思っている?来栖恭太郎…貴様ら下賎な畜生とは一線を画す存在だぞ?そんな畜生相手に、高貴で誇り高いこの俺が無様に逃げ惑うなどと…」

胸ポケットからハンカチーフを取り出し、スーツについた埃を払う。

「夢見がちなのも程々にしておけ、魚」


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