ソプラノ
混乱
屋上を後にした俺は、混乱した頭のまま、ゆっくりと病室に向かって歩いた。








―ガラッ




病室のドアを開けると1人の女が目に入る。





―倉橋由希。






「何してんの」





俺は花瓶を持ったままの由希に向かって問いかけた。






「おかえり~ってどこ行ってたの?花、持ってきた!水変えるから」




由希は花瓶を慎重に持ち直し、水道に水を流し始めた。






「あっそ。それはご苦労ですね」





俺は偉そうに言うと、ベッドに体を倒す。









「ねぇ!そういえばさあ、もうすぐ5月25日じゃん?お祭り行く?」





由希は花を花瓶に移しながら言った。





「はぁ?行くわけねーじゃん。てか、病院から許可もらわないと行けねぇし」





俺は枕元に置いてあった雑誌に目を通しながら言い返した。





「えーっ!?何それ!!あたしから病院に許可取ってあげるからさ~!!」




由希が俺の雑誌を横から奪い取る。






「・・・もーうるせぇよ。しゃーねぇだろーが」





俺は由希のキンキンとした声に耳を塞ぐ真似をした。







「だって、みんなで行きたいじゃん!?ね!お願い~行こっ」




「しつけーなぁ!じゃあ、許可もらってきてみろよ」






俺は由希から雑誌を奪い取ると、しっしっと手で追いやった。





「いーもん!絶対取ってきてやるっ!!」





由希はそう言うと病室から走って出て行った。

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