ソプラノ
混乱を頭に抱えたまま、俺は次の日を迎えた。








―まじかよ・・・・・。






俺は中庭にいた。







ベンチに腰掛け、昨日のことに頭を悩ませていると、ふと、涼の顔が頭をよぎった。





そういえば、今日何してんのかな。









俺は、いまにも涼の歌声が聴こえてきそうで、耳を澄ましていた。






でも、今日は聴こえない。





変わりに聴こえるのは、子供のはしゃぐ声だけだ。






―噴水の近くではしゃぎ回る小さな子供たち。






―その近くの木陰に車椅子を止め微笑んでいるおばあさん。





―幸せそうに笑う、家族。







でも、ここは“病院”なのだ。







あの小さな身体を、年老いた身体を、“病気”が蝕んでいるのだろうか。





―重い病気の人もいるんだろ?

―死が近い人もいるんだろ?





どうして、笑っていられるんだ?




人間は、「不思議な生き物だ」と改めて思った。







―“重い病気”にかかっている涼を、俺はまだ知らなかった。

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