ソプラノ
「こんなところじゃなんだから、座ろうよ」
涼はベットの横にある丸椅子を指差した。
「凛さんから聞いたんだ。弾くんの話!なんか、すごいカッコイイよって言ってたの!」
涼は椅子に腰掛けながら言った。
「あ。凛さんには内緒ね?実は、凛さんってすごい面食いなんだ。かっこいい人がいるとすぐ、言いに来るんだ」
と、涼は笑った。
―つられて俺も笑う。
「俺、弾って呼んで。涼、でいい?」
「うん!よろしくねっ」
涼は少しおどけてみせた。
俺は軽く自己紹介したところで、涼としばらく話す。
涼と話していると、時間が経つのが早い。
―面会時間が、もう少しで終わろうとしていた。
「帰る、じゃあまたな」
俺はドアに向かって歩き出した。
すると涼は、俺に声をかける。
「明日、よかったら屋上行かない?」
俺は少し迷い、「おぅ」と短く返事をした。
約束の時間は10時。
俺にとっては10時でも朝。
―はっきり言ってだるいし、眠いし行きたくないと思っていただろう・・・いつもなら。
でも、「行きたい」と思うのはなぜだろう・・・。
ペタペタとスリッパの音を廊下に響き渡らせながら病室を進む。
―ガラッ
ドアをあけ、顔を上げるとベッドサイドのスペースに、花瓶が置いてあるのが目に留まる。
花瓶には、桜の枝が2,3本飾ってあった。
その桜はもう、だいぶ散っていた。
―もう少しで、夏になんのか・・・
「早ぇなぁ」
俺はボソッっと呟き、ベッドに体を倒した。