忘れられない人
それから一週間後。

普段通りに仕事をこなしているときに、机の上の内線が鳴った。

「はい、債券部中野でございます。」

私は某証券会社で働いている。

事務職なので、毎日デスクワークだ。

内線が鳴ることもそんなにないので、内心何かミスをしたんじゃないかとヒヤヒヤしていた。

「お疲れさまです、佐田ですが。」

一瞬、誰かわからずにきょとんとしてしまった。

相手も、私のそんな様子に気づいたのか、

「羽田の先輩の佐田ですよ!もう忘れたの?ひどいな、咲妃ちゃん。」

あ。

その佐田さんか。

「ごめんね、連絡遅れて。オレ営業だから、あんま社内にいないんだよね。今日は午後から外回りだから、一緒にお昼でもどう?」

「うん、いいよ。私、お昼、11時からだけど行けるの?」

「大丈夫!咲妃ちゃんに合わせまっせ〜。じゃ、11時に一階の入り口で。」

内線を切ると、私は小さくこぶしをにぎりガッツポーズをする。

隣の席の同期、仮屋友美(かりやともみ)がそれを見て、

「どした?何かイイコトでもあった?」

と、聞いてきた。

「うん、多分♪」

きっと。

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