忘れられない人
「お昼いってきまぁす。」

11時になると、私はダッシュで一階へと駆け降りた。

するとそこにはもう、湊の姿があった。

「お疲れ〜!早いね。」

「お疲れさまです、中野さん。じゃ、行きましょうか。」

んん?

何でまた、急に敬語?

さっきまで名前で呼んでたくせに。

「いいよ、名前で呼んで。かえって急に敬語使われると気持ち悪い。」

会社から一歩外に出ると、

「ごめんね、かしこまっちゃって。いちお、先輩だし、会社の中ってすべて年次じゃない?さすがに入ったばっかのオレが、名前で呼んでたらまずいでしょ。」

と言ってきた。

そんなもんかしら?

友達として知り合ったんだから、関係ないのに。

「それに、営業のやつら、みんな噂好きだから、オレと何か噂されても困るでしょ(笑)」

湊に言われるまで、そんなこと、気にしたこともなかった。

確かに、どこの部の誰と誰がつきあってるとか、社内恋愛の噂は尽きない。

しかもデマであっても、なかなか噂はなくならないし、視線もイタイので、できれば噂の的にされないにこしたことはない。

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