忘れられない人
「和食でいい?あんまり社内の人が来ないとこ、あるんだ。」

そして、ちょっと奥まった路地裏に入ると、小さい看板を出している店が目に飛び込んだ。

「へぇ。初めて入るや。」

「穴場でしょ。」

店内はまだ11時になったばかりということもあって、閑散としていた。

「あの・・・さ。みちるから何て聞いた?」

メニューを見ながら、口を開く。

だけど実際は全く見えていなかった。

「あぁ。中野さんが、藤咲を気に入ったって聞いたけど?」

湊はちらっとメニューを見ただけで、すぐにパタンと閉じてしまう。

「えっ、もう決まったの?」

「うん、だいたい何が食べたいか決めてきたから。中野さんはゆっくり決めて。」

湊は相変わらず名字で呼んでくるので、それも何か落ち着かない。

「あ、私決まったよ。」

そして湊はアジフライ定食、

私は海鮮丼を頼んだ。

「いいんじゃない?アイツ、男のオレから見てもかなりの男前だと思うよ。顔はいーし、会社は大手だし、マジメだし。ただ相当堅いけどね(笑)」

そう言って、にやっと笑う。

「まぁ、男としてはちょっとくらいは軽くないと面白みはないかなと。」
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