忘れられない人
「オレも営業じゃないんだけど。」

「でも、名刺くらい持ってるだろ?!そういや、まだもらったことなかったもんな。出し惜しみしてないで、くれよ!」

湊にせっつかれて、凌はしぶしぶ財布を取り出し、中に名刺が入っていないか探している。

「・・・藤咲ってば、本当に名刺ないの?」

「いや、あるにはあるけど、渡すことも滅多にないから持ち歩いてないんだよね・・・。・・・おっ、1枚発見。」

凌の取り出した名刺は、ずっと財布に入れられてたようで、

はしっこが少し折れていた。

「・・・悪い。1枚しかないや。」

「サンキュ!じゃあこれ、中野さんにあげるね。」

そう言って、凌から受け取った名刺を私に手渡してくれる。

「はぁぁ?!湊が欲しいんじゃないのかよ?」

欲しがったくせに、私に手渡したのがよくなかったのか、凌はちょっと不機嫌な声になった。

「いや、欲しいけどさ。オレはよくオマエには会うもんな。だからまた今度でいーや。中野さんは、次いつ会うかわかんないだろ?・・・ってか、1枚しか持ってない、藤咲が悪いんだけどな。」
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