名残の雪
「ごめん…、雅美の気持ちも知らずに、アタシ勝手なことばっか言って…」

「やめてよ、そんな暗い顔。知恵には似合わないってば」

なるべく表情を和らげたつもりのわたし。


「ぶっ、ちょっと~、やめてよ~!何その顔―!雅美らしくな~いっ」

「ちょ…、知恵。それ、どういうことよ?」

人の顔に指を差し大笑いしだした知恵に、わたしは眉と眉の間に皺を作る。


「そうそう、雅美にはその顔が一番似合う~!」

と、知恵の大きな声がトイレに響き渡る。


この失礼発言に益々わたしは顔を顰めて、知恵を置いてトイレを後にする。


不意に聞き慣れた低めの声が頭上を掠る。

「おいっ」


その声は振り向かなくたって相手がわかる。


声の方には振り向きもせず、歩く足を早める。


「無視かよ」

深く溜め息を吐き出したアイツは動かす口を止めなかった。
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