名残の雪
「誤解してるみたいだけどさ。興味であんたにちょっかい出してるわけじゃないけど」

その言葉にわたしの足が自然に止まる。


廊下のタイルにタッタッタッと静かに響く靴音はやがてしなくなって、代わりにアイツの姿が目の前に飛び込んできた。


「やっぱ化粧してない顔の方が好きだな、俺は」

カッと熱くなって睨んで見れば、ニヤッと不敵な笑みを見せるコイツ。


「学校以外であんたを見るときって、いつも不器用に化粧してさ。服装も妙にお姉さんっぽくて、背伸びして無理してさ。見ててかわいそうだった」

「興味じゃなく同情だったって言いたいんでしょ。忠告も聞かずごめんなさいねっ、素直じゃなくて!」

立ちはだかる壁のような身体から、スルリとすり抜けてわたしはスタスタと足を進めた。


始めから全てを知っていた彼の顔を、まともに見れないでいた。

いちいち言われなくとも同情だったのは、あの時に全部わかっていたから。
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