名残の雪

「ったく…。なんで俺もあんたみたいな女、好きになったかわかんねぇよ。
気づいたら自分の兄貴の浮気相手になってるし、どうしようもねぇよなー」

間違いなくそう聞こえたわたしの耳がおかしくなってしまったのか、それともアイツの気でも狂ったのか。


どちらにしてもおかしなセリフに、わたしはもう一度振り向くしかなかった。


「入学してからずっと、俺は早川雅美が好きだった」

真剣な面持ちでわたしを見つめる目の前にいるアイツは、わたしの知らない久保修平だった。


「でも、それも今日で終わり。悪かったな、付きまとったりして」

と、言葉を続けると。


「じゃあな」

それだけ言い残すと、踵を返しわたしに背を見せ階段を下りて行った。


…アイツが。

わたしを好きだった。


ありえないセリフに、わたしは放心状態で一歩も動けず立ち尽くすだけ。
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