名残の雪
わたしとは違って、“久保くん”は協調性豊か。それなりにスポーツもできる。勉強もそこそこ文句なし。顔もいい。

これだけで充分過ぎるくらいだけど、付け加えるとすれば妙にモテるのは特定の『彼女』がいないからか。

それとも、その相手らしき人物が浮上したところで、それが『わたし』だからなのか。



「久保くん、がんばっ!」

なんて、まだ試合は始まってもいないのに黄色い歓声もちらほら。


こんな光景を見せられているわたしはというと、たまに、ほんとにたまに胸にチクリと何か突き刺さるくらい痛む。


そんなときはこうして、体育座りで両膝抱えて顔を埋める。視界を塞がれた耳は嫌でも館内の雑音を拾う。


「久保ーっ!がんばれーっ」


他にも目立つ男の子はたくさんいるっていうのに、黄色い歓声の先はよりによってなぜ相手が久保くんなんだろうか。
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