スノー・ラヴァーズ
「かえらなきゃっ!」
紅い空を見てドロップは慌てて駆け出した。
夕暮れを過ぎると安全な森でさえ危険な動物が徘徊する。
だから森に入るのは、お日様が高い時間だけという村の決まりがあった。
ドロップは紅い空を見て、いつもの夕暮れが早く来てしまったと思い込んでいた。
村に近付けば近付くほど空は紅くなっていく。
知らない間に時間が経っていたのかもしれない。
ドロップは村まで走り続けた。
「……?」
森の出口まで来て、ドロップは思わず立ち止まった。
村に着いたはずなのに…そこには何もなかった。
ただ見えるのは、紅く燃える炎の海。
幼いドロップでさえ炎の恐さは知っていた。
突然の炎の海にドロップは独りきり。
何が起きているのかも解らなかった。
「……っく。…まま?…ぱぱ…?…ひっ…く…。」
思わず泣き出したドロップは、涙を瞳に溜めながら必死に村を見る。
炎に包まれた村に声をかけても、そこには両親の姿も誰の姿も見当たらなかった。
大粒の涙がドロップの瞳から溢れ出そうとした時、急に下の方から白くて眩しい光りが見えた。
「…っく。……?」
よく見るとその光りは今朝両親からもらったペンダントのものだった。
光りはさらに眩しくなり、ドロップが目も開けられない程に強く光っていた。
それは優しい光りだった…。